今週ではなく、先週末のお話です。光陰矢の如しで、1週間が過ぎるのが早いですね。

私が行っています認知症治療コウノメソッドですが、全国の実践医に波及して、治療研究会が発足し、はや5回目です。今回も非常に内容の濃い研究会で、すぐ日常の診療に役立つ内容でした。品川はまずまずの天候でした。

河野先生は以前から提唱されていますが、「中枢神経総合医」という発想が、あらためて大切だなあと思いました。この領域は脳外科、神経内科、精神科、心療内科など様々な診療科が交錯する領域です。河野先生の歩みから現在の認知症診療の事実を観ると、一つの診療科では力不足という印象があります。それぞれの領域にある程度精通しているプライマリケア的診療が必要とされる領域のようです。

その理由は、「物忘れ」というありふれた症状でも、水面下には様々な疾患がクロスしていて、その疾患をある程度把握しておかないと、薬物療法を行う上でも、間違った方向へ動く可能性があるということです。その一つが、「てんかん」という領域。昔からてんかんは小児の病気もしくは脳梗塞など脳血管疾患の既往のある患者さんの病気という捉え方をされがちですが、実はけいれんの起こらないてんかんは、認知症と非常に間違われやすいという事実があります。さらに通常の脳波などで診断できない例も多々あるという事実まで。ならばどうするかということ。

もう一つが「発達障害」という領域。これも比較的若い患者さんをイメージしやすいのですが、極論すれば死ぬまで表出されやすい病気でもあります。そしてこの疾患が「もの忘れ」という症状から、疾患自体が見過ごされがちになるということです。もちろん小児期からの疾患ではありますが、高齢になっても疾患として居座り続けている事実。

このような多角的視点から認知症を診なければならない時代に突入しています。しかしそれを知っている医師もどの程度いるやらという地域や集団による格差。私が7年以上も前からコウノメソッドに携わっているからこそわかる部分もあり、ある面ぞっとする感もあります。そして精神科医でさえこの発達障害、あまり得意でないという話も聞きます。さきほど書きました「中枢神経総合医」、プライマリケアらしい的を得た表現だと思います。

今回は「てんかん」領域で若手のホープである久保田先生の講演もあり、この領域でも非常に効果的な薬物が出ている昨今でもあり、高齢者てんかんという領域をいっきに学ぶことができました。さらに「発達障害」については、コウノメソッドの治療理論とオーバーラップする部分も多く、そういう意味でも、今後知識と経験を深めていきたいと思っています。コウノメソッドでは「周囲と穏やかな生活」というのがモットーですが、高齢者に潜む発達障害治療の目標もそれです。

現段階での認知症介護の現状をご報告しておきます。介護保険でグループホームなど施設に入られる方々が多いでしょうが、その方々が認知症の周辺症状で精神科に入所して戻ってこなくなるパターンが続出しています。その症状とは、「暴言暴力」「徘徊」「昼夜逆転(夜間排尿問題も含む)」の3つがメインです。介護者がどうしようもなく看てあげることができなくなるのです。そして精神科に入所して落ち着いた場合でも、その施設に空きがある可能性は少なく戻ってこれない。つまりそのまま精神科入院、次はどうなるやらといった実情です。介護施設を経営され、コウノメソッド治療を使って重度の周辺症状をコントロールし、普通の施設では追い出されたような患者さんを診続けておられる先生のご発表がありました。その先生のお話では「コウノメソッドで8割以上は改善するので、精神科入院を避け、施設で末永く人間的生活をしていただくことが可能だ」とのことでした。家族も施設に入る時は、まさか行く末に精神科に入る羽目になるなど思ってもいません。しかし医師が認知症を総合的に把握し、薬物治療で周辺症状をコントロールできないと、患者さんはこのレールに乗っかってしまいます。

河野先生の発表で印象に残る症例がありました。両親とも認知症で娘さんがどちらも介護しなければならなくなった例です。認知症そのものは父親の方が重度であったのですが、娘さんは母親を施設に入れ、その重度の父親を自ら介護したという話。実は、母親は先ほどの発達障害を伴っていて、アスペルガー症候群であり、常に「不平不満、暴言の嵐」だったらしく、父親は重度にも関わらず、食事の時に、「どなたさんかわかりませんが、おいしい食事をありがとう。」と言い続けていたそうです。まさにコウノメソッドが目指すべき日常です。今後も少しでも地域で根差すように精進したいと思います。